コミュニケーションは、情報を伝える側(話し手)と情報を受け取る側(聞き手)の双方により成り立ちます。よって、コミュニケーション上手になるためには、伝え方 how to tell だけではなく聞き方 how to listen についても気を配る必要があります。結論から先にいうと、話し手として「わかるように伝える」、聞き手として「積極的に相手の話をきく」ことが最重要ポイントです。
社内での仕事を円滑に進めるためにも、取引先や顧客と良い関係を築くためにも、アメリカの職場におけるこれらの「伝え方と聞き方のポイント10選」をマスターし、コミュニケーション上手を目指しましょう。
目次
伝え方・5つのポイント
まず、アメリカの職場において話し手として注意すべき5つのポイントです。
結論から先に話す
アメリカのビジネスシーンにおいては、「結論から先に話す Present a conclusion first.」ことは特に重要。日本語では詳細な情報から結論を導き出すボトムアップ方式、一方、英語では最初に結論を述べてから後で理由付けをするトップダウン方式です。日本語と英語では論理の展開方法が異なっているんですね。
特にビジネスにおいては、結論の無い話をだらだらとするのは禁物です。最初に結論から入り、話は簡潔明瞭に briefly and clearly 伝えます。英語らしい話し方を身につけるには、日頃から、結論から話す癖をつけておくことです。事前に頭の中で整理してから正確に伝えるようにしましょう。最初のうちは慣れないかもしれないので、伝えたい内容を予めメモにまとめておくとよいですね。
意見を率直に伝える
日本の職場では単に「自己主張が強い人」と思われがちですが、アメリカの職場においては自分の個性を発揮し、やる気をアピールすることにもつながります。本当は自分の言いたい意見があるのに、周りにを気にしすぎて何も言わないのは、アメリカの職場では「意見がない人」「やる気がない人」などと受け止められる可能性があるので要注意です。
ただし、自分の意見にしっかりとした根拠justification があることが条件です。ただ自分勝手に言いたいことを言うというのは、単なる愚痴complaint や批判criticism と受け止められてしまいます。また、ぼそぼそと口ごもったような話し方mumbling では、自信の無さが相手に伝わってしまうので、語尾を濁さず聞きやすい声でメリハリよく話します。
相手の目を見て話す
前回のトピック「”たかが挨拶、されど挨拶” ~アメリカの職場における「挨拶の5原則」、実際に使われている挨拶表現~」でも書きましたが、アメリカ人とのコミュニケーションにおいてアイコンタクト eye contact はかなり大切なポイントです。話をするときは、相手の目を適度に見ながら話す。これはアメリカではビジネスシーンのみならず、日常会話においても社会人として心得ておきたい最低限のエチケットno more than common courtesy です。英語でのプレゼンテーションでは、「少なくとも50%は相手の顔を見ると好印象を与える」と言われているほどです。
話をしている間に横見したり、視線をずらしたりすると、相手に誠意が伝わりません。とはいうものの、我々日本人にとって頻繁なアイコンタクトは、最初は抵抗があるかもしれませんね。シャイな人や慣れない人は、相手の鼻の上あたりを見るようにすると、聞き手に違和感がないのでぜひ試してみてください。
相手の表情を観察する
一方的に話しまくる talk incessantly のではなく、相手の表情を常に観察 observe facial expression constantly しながら会話を進めましょう。自分の話だけに夢中になってしまうと、相手が退屈していたり、本当に興味を持って聞いてくれているのかが分からなくなってしまいます。途中で何か言いたそうにしているかなど、反応を確認しながら話すようにしましょう。
相手が理解しているか確認する
上記の「相手の表情を常に観察」にも関連していますが、相手が自分の話をきちんと理解してくれているかどうか、会話の途中で確認することも重要です。そうすることで、相手に誤解を与えてしまったり、うまく伝わらないなどという不測の事態 unforeseeable circumstances を避けることができます。
話の途中で相手の反応がいまいち、または「もしかしたら自分の言っていることが伝わっていないのでは?」などと不安になった場合は、こんな表現を使うとよいでしょう。どの表現も「私の言っていることがお分かりですか?」と直接的にきいています。
・Are you with me?
・Do you see what I'm saying?
・Do you follow me?
以上、伝え方の5つのポイントでした。
聞き方・5つのポイント
次に、聞き方のポイント5つです。
積極的に相手の話を聞く
聞き手としての最重要ポイントは、「私はあなたの話を真剣にきいてますよ~!」ということが相手に自然に伝わることです。相手への共感を表情や動作で表現し、相手の話に興味を持っていることを示すことで相手にも好印象を持ってもらえます。
具体的には、背筋を伸ばした状態で相手の表情や目を見て話を聞くこと、相づちを打ったりうなづいたりし、話の途中で必要以上い口を挟まずよい聞き手に徹します。そうすることで、相手も積極的に話を聞いてlisten proactively くれていると感じ取ることができます。
相づちを工夫する
相づちの仕方も、yes の連発ではなく、以下のようにバリエーションを持たせるなど相づちを工夫するmake agreeable responses creatively と効果的です。
<相づちのバリエーション>
- Uh-huh.
- Right.
- Sure.
- Certainly.
- Indeed.
- I see.
- Correct.(「うん、そうそう」というニュアンス。職場の同僚がよく使う相づちです。)
- OK.(*最後を上げて言う。)
- Is that so? Is that right? Really?「本当ですか?」
- That's good.「それはいいですね。」
- That's too bad.「それは残念ですね。」
このような同意の言葉を示す相づちを的確な箇所で用いることで、会話がより円滑に進みます。ただし、相づちのやり過ぎは相手に不快感を与えることにもなりかねないため注意します。また、日本人がよく言ってしまいがちな “Yeah, yeah.” ですが、礼儀が正しい表現とは言えないためビジネスにおいて使用するのは控えましょう。
不明な点は必ず質問する
話の内容が分からないときは、必ず質問するAsk questions. ようにします。不明な点をそのまま放置し、話が終わった後で「あれはどういう意味だったんだろう」などということがないように、その場ですべてをクリアにしておきます。後で「実は話が分かっていなかった」ということになると、「どうしてあの場で直接聞いてくれなかったんだ」などと、相手はあなたに対して不信感を抱くことになるでしょう。
また、会話中に相手からの反応がまったくないと、話し手は不安になるものです。特に日本人の場合、米人従業員に話しかけられても、英語に自信がないなどの理由で黙ってただ聞いているケースも少なくないかもしれません。しかし、アメリカのビジネスシーンにおいて「沈黙は金。Silence is golden.」は通用しません。このような日本人の沈黙は彼らをイライラさせるばかりか、「この人は私の話を分かっていない」「自分の意見を持っていない」などと不信感の原因となり、後々の人間関係にも影響を及ぼします。米人にそう受け取られないよう、必ず何らかの反応を示す必要があります。
また、実際に私自身も職場で目撃したことがあるのですが、「分かったふりをする」「(無言で)笑ってごまかす」などのケースもありました。しかし、相手は「この人、分かっていないな」と見抜いています。話が終わった後で同僚の米人が私に、It seems he doesn't understand what I was saying.「彼、僕の言っていること理解してないようだね。」とか、His smile is creepy.「彼の薄笑いはキモイよ。」などと耳打ちしてきたこともありました。そうならないよう気を付けましょう。
重要事項を復唱する
担当者名、日時、場所、数字などの重要事項は必ず復唱・確認し repeat and confirm、間違いがないようにします。うまく聴き取れなかった場合は、遠慮せずに必ず聞き返します。
メモを取る
上司と話している時や打合せだけではなく、ビジネスシーンにおいてはメモを取る take notes 行為は基本です。覚えられると思っても、時間が経つと意外と忘れてしまうものです。話の中で重要なポイントを箇条書きにまとめるようにします。特に、ビジネスにおいては以下の5W2Hに意識してメモを取ると、あとで見返したときに分かりやすいです。
- When「いつ」(期限や納期など)
- Where「どこで」(場所)
- Who「だれが」(担当者名、参加者名)
- Why「なぜ」(理由、目的)
- What「何が・何を」(仕事やメッセージの内容)
- How「どのように」(方法、仕事の進め方)
- How much「(経費は)いくらかかるか」(予算)
以上、聞き方のポイント5つでした。
アメリカの職場には「ホウレンソウ」など存在しない?!?
最後に、日本の職場ではコミュニケーションの基本として強く推奨されているお馴染みの「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)Report, Contact, Consult 」についてです。この「ホウレンソウ」、アメリカの職場でも取り入られているビジネス慣習なのでしょうか?
結論から言うと、NOです。アメリカの職場では、現場の担当者は皆その分野の専門家であるため、一般的に担当者は上司よりも実務を熟知しているためです。よって、いったん上司が部下に仕事を指示し、その際に仕事の目的や背景を伝えた後は、基本的に最終報告があるまでノータッチのことが多いです。途中で問題が発生したり、質問がある場合は相談を受けることはもちろんあります。ただし、日本のように上司の方から逐一仕事の経過を細々確認したり、報告させたりなどはまずありません。アメリカでこのような行為は「マイクロマネジメント micromanagement 」とみなされ、リーダシップを欠く行為としてネガティブに受け取られることもあるため十分な注意が必要です。
よって、アメリカ人の部下に対して「ホウレンソウ」を期待、強要したりすると、お互いにすれ違いになってしまう可能性が高くなるでしょう。米人従業員としては「自分は信用されていない」「仕事を任せてくれない」などの不満を持つ一方、日本人上司としては「報告がないので仕事が本当に進んでいるのだろうか」と疑心暗鬼になったり、「実際に出てきた成果物が期待していたのと違っていた」などと期待を裏切られることになりかねません。
このようなすれ違いを起こさないためには、任せる仕事について期待されている結果の詳細を実例など示すなどして、予め明確にしておくことです。スケジューリングについても、中間報告が必要な場合はその旨を初めにしっかりと伝え、仕事の進め方についても双方が納得した状態にしておきます。部下に仕事を任せた後は、過度の監視や干渉はできる限り避けましょう。
まとめ
アメリカの職場においてコミュニケーション上手になるには、伝え方・聞き方それぞれ5つのポイントを押さえておきます。
*伝え方・5つのポイント:
1) 結論から先に話す
2)意見を率直に伝える
3) 相手の目を見て話す
4)相手の表情を観察する
5) 相手が理解しているか確認する
* 聞き方・5つのポイント:
1) 積極的に相手の話を聞く
2)相づちを工夫する
3)不明な点は必ず質問する
4)重要事項を復唱する
5)メモを取る
また、アメリカの職場では日本式マネジメントの典型である「ホウレンソウ」を期待すべきではありません。その代わり、仕事で求められる最終結果とスケジュールを事前に明確に伝えておきます。