対人スキルは、アメリカ駐在員がアメリカ人と円滑に働くうえで欠かせない重要なスキルの1つ。当ホームページでは、アメリカ駐在員が持つべき「三種の神器」のうちの1つとしても位置付けています。

アメリカで働く」では、対人スキルを身につけるうえで「アメリカで働く前に」知っておきたいビジネスマナーや心得、人事(HR = Human Resources)関連を中心としたアメリカビジネスの基礎知識について解説しています。

まず最初に、渡米前には知っておいたほうがよい、日米のビジネス慣習における2つの大きな違いについて押さえておきましょう。

日米のビジネス慣習の大きな違いは、この2つ!

1.雇用、役職、報酬に対する考え方における違い

終身雇用・年功序列 能力・成果主義 解雇
日本 〇 or △ 〇 or △ 厳しい制約あり
アメリカ 自由度が高い

<日本> 昨今は大企業を中心に終身雇用や年功序列を廃止、または廃止を検討。ただし、整理解雇の四要件により解雇については厳しい制約あり。

<アメリカ> 昔も今も完全な能力主義・成果主義。また随意雇用により解雇や自主退職における自由度が高い。

2.リーダーシップの取り方やビジネス上の決定(decision-making)の手法における違い

同意・根回し トップダウン方式
日本
アメリカ ✖ or △

<日本> 管理職側の同意(consensusや根回しを重視

<アメリカ> 管理職側からのトップダウン方式

ただし、上記は米系企業と日本における日本企業との比較であるため、現地の日系企業においては完全にアメリカ型の経営コンセプトを取り入れているというわけではありません。むしろ、現状は双方のコンセプトが入り混じるハイブリッド型となっている企業も少なからず存在しています。

雇用に対する考え方: アメリカは能力主義のみ、雇用は契約の一形態

日本の場合、特に民間企業においては役職、報酬の年功序列(promotion by seniorityはすでに崩壊しているのは周知の事実。一方、アメリカでは最初から能力主義・成果主義(performance-based remuneration systemが浸透しており、雇用の流動性は比較的高いといえます。

日本の終身雇用(lifetime employment は崩壊したとはいえ、日本で転職を何度も繰り返す人(job hopperは、業界にもよるがまだまだ少数派。転職回数が多いと、どうしてもネガティブな印象をもたれてしますよね。

また、日本は整理解雇の四要件により、解雇については厳しい制約が課せられています。(「整理解雇の四要件」=1.人員整理の必要性、2.解雇回避努力義務の履行、3.被解雇者選定の合理性、4.解雇手続の妥当性)

一方アメリカでは、生涯における転職回数は平均8回程度。30代までであれば、よりよい条件を求めて2~3年で転職するビジネスマンが多いです。ちなみに、アメリカにおける離職率( turnover rateは、業界全体で17.8%(2016年現在)。

アメリカのビジネス現場にいてよく感じるのですが、アメリカ人の転職についての考え方は本当にドライです。

以前私が勤務していた現地法人の会社でも実際にあった話ですが、「他社から今の年収を上回るオファーをもらったので、年俸をこの額以上に上げてほしい」と直接会社に交渉してきた社員がいました。結局、会社はその社員の申し出を断ったため、この社員は他社に転職してしまいました。この例のように、社員が会社に直接年俸アップの交渉を持ちかけることは、アメリカでは決して珍しいことではありません。

この背景には、随意雇用(employment at willという概念があります。随意雇用において、雇用主は基本的にいつでも従業員を解雇でき、同時に従業員はいつでも退職できるという考え方があり(差別による解雇や不当解雇は除く)、雇用は契約の一形態となっているのです。

このような随意雇用をうたった at will 条項は、内定通知( offer letterに予め記載されていることが多いです。日本の親会社から派遣されてくる駐在員の場合は、当然親会社との雇用関係を維持したままなので随意雇用ではありません。一方、同じ日本人であっても現地採用の場合は、他の米人従業員同様この随意雇用による採用が一般的です。

また、アメリカは日本と異なり移民の国であり、多種多様な人種が共存する多民族国家。そのため、すべての人を平等かつ公正に扱うべきとの考え方を基盤に雇用に関する法律が連邦・州レベルで整備されています。

よって、採用をはじめ、報酬・昇給・昇進・配置転換・解雇といった人事に関わる決定は、雇用法に関する複数の法律を事前に理解し、これらの法律にもとづいて適切に判断することが極めて重要になってきます。この点を軽視したたばかりに、訴訟問題に発展し多額の慰謝料を請求された日系企業も少なくありません。

リーダーシップの取り方: アメリカはトップダウン方式

アメリカの業務上の決定事項は、管理職側からのトップダウンで決められることが一般的。

ただし、これはあくまでも米系企業と日本にある日本企業と比べた場合です。現地の日系企業については親会社が日本であるため、日本人を含む米国子会社のマネージメントが日本の親会社との調整・対応に当たるか、日本人主導で話をすすめてしまうことも多いです。

よって、アメリカの現地法人子会社の米人管理職員のなかには、コンセンサスや根回しといった日本の慣習にある程度慣れている場合もあったりします。

たとえば、トヨタ系列の某現地法人に勤務する米人社員の間では、「根回し」という日本語が “nemawashi” のようにそのまま英語として使われていました!私もこれまで職場で “kaizen” (改善)や “genchi genbutsu” (現地現物)などの言葉はよく耳にしてきましたが、この “nemawashi” という日本語が米人従業員の口から直接でてきた時には正直意外に感じました。

一方、これはトヨタのような大企業の場合なので、中小企業の現地法人の場合はこのようなことは稀かもしれません。

よって、基本的にはトップダウン方式が米国流リーダーシップの取り方であると理解をしておいたほうが無難でしょう。同時に、非管理職の社員は上司とのコミュニケーションをしっかり取って、フィードバックやアドバイスを受けた場合はそれを柔軟に受け入れる姿勢が求められます。

また日本の職場の場合、部下を人前で叱ったり、怒鳴ったりする光景は珍しいことではありませんが、アメリカでこのような行為はご法度。最悪の場合、訴訟に発展する可能性もあるので要注意です。

アメリカの職場では、お互いをプロフェッショナルとして尊重しあう姿勢が求められるため、仮に注意を与える場合は社員を別室に呼び、建設的な話し合いをすることが望まれます。

その際、話し合った事実は必要に応じて記録に取り、双方が書面にサインと日付を記入しておきます。仮にその社員を解雇することになった場合、会社として一定のプロセスに従った処置をしたという証明にもなり、会社の法的リスクを軽減することができるためです。

まとめ

1.アメリカには終身雇用や年功序列という考え方がなく、今も昔も能力主義・成果主義(performance-based remuneration system)がスタンダード。

2.解雇については、日本は「整理解雇の四要件」という厳しい制約がある。一方、アメリカは随意雇用employment at will)により解雇や自主退職における自由度が高い。

3.リーダーシップの取り方について、日本は管理職側の同意(consensus)や根回し(nemawashi)を重視する。一方、アメリカはトップダウン方式が主流。